AIの進歩には目を見張るものがあります。
近い将来、AIが新しい材料や機械を開発し、ロボットが製造を担い、さまざまな産業が高度に自動化されるかもしれません。
私はこうした技術の進歩を非常に前向きに捉えています。
しかし、その一方で、あらゆる機械をインターネットにつなぎ、外部から操作できるようにすることが、本当に正しい進化なのかと考えることがあります。
便利さが新たなリスクになる
2026年10月11日から12日にかけて、フランスの数百店舗のスーパーマーケットで、冷蔵・冷凍設備がサイバー攻撃を受けたと報じられました。
報道によると、冷却設備の霜取り機能が不正に操作され、一部では温度が50℃に達し、大量の食品が廃棄されたほか、火災も報告されています。
冷蔵庫の本来の役割は、食品を適切な温度で保存することです。
遠隔監視や操作は便利ですが、その機能が悪用され、冷却という本来の目的を果たせなくなるのであれば、本末転倒です。
また、外部サービスの障害や終了によって、正常な機械が使えなくなることも避けたい問題です。
便利さを捨てずに、安全性を高める
だからといって、インターネットやスマートフォンとの連携をなくすべきだとは思いません。
離れた場所から機械の状態を確認したり、設定を変更したりできることには、大きな価値があります。
そこで重要になるのが、外部との通信機能と、機械の制御・安全機能を分けて考えることです。
例えば、「データダイオード」という技術があります。
電子部品のダイオードが電流を一方向に流すように、データダイオードは情報を一方向にだけ流す仕組みです。
これを使えば、機械の温度や稼働状況を外部に送信しながら、同じ通信経路を使って外部から機械を操作することを物理的に防げます。ただし、外部へ送る情報の内容や送信先は適切に管理する必要があります。
では、スマートフォンから操作したい場合はどうすればよいのでしょうか。
その場合は、別の通信経路を設け、操作できる内容を制限する方法が考えられます。
ここで大切なのが、次の考え方です。
「スマホは機械に要求を出せる。しかし、最終的に何を実行するかは機械自身が決める」
例えば冷蔵庫なら、スマートフォンから「設定温度を4℃から5℃に変更したい」と要求することはできます。
しかし、食品の保存に適さない温度への変更や、霜取り運転を異常に長く続ける要求は、冷蔵庫自身が拒否します。
さらに、庫内温度を独立して監視し、危険な温度になれば警報を出す仕組みも考えられます。
こうした設計であれば、仮に外部から不正な操作要求が送られても、被害を防いだり小さくしたりできる可能性があります。
もちろん、今回のフランスの設備にどのような安全対策が実装されていたかは別途確認が必要ですが、設計段階で考えておきたい対策の一例です。
また、インターネットが切断されても機械が本来の動作を継続できることや、異常時には通信機能とは独立した安全装置が働くことも重要です。

AIを活用し、外部に依存しない機械を開発する
NOHGでは、AIソフトウェア、農業機械、音響機器、ドローンをはじめ、「こんな機械があったら便利だな」と思えるような、さまざまな機器やシステムの研究開発に取り組んでいます。
こうした開発において、AIは設計やプログラミングなどを支援してくれる非常に有用な技術です。
しかし、完成した機械が常に外部のAIやクラウドサービスに依存する必要はありません。
開発には最新のAIを活用し、完成した機械は必要な機能を独立して実行できる。
この両立を目指したいと考えています。
NOHGでは今後も、スマートフォンによる遠隔監視・操作などの便利な機能を取り入れながら、データダイオードのような一方向通信技術、操作権限の制限、独立した安全機能などを、用途に応じて検討・活用していきます。
おわりに
これからの機械開発では、「何ができるか」だけでなく、「外部から何をされないようにするか」という視点も重要になると思います。
インターネットにつながる便利さを享受しながら、外部からの不正操作やサービスへの過度な依存を防ぐ。
「つながっても、支配されない機械」。
NOHGでは、そんな機械づくりを目指していきたいと考えています。
参考資料
フランスの冷蔵・冷凍設備へのサイバー攻撃について:Reuters(2026年10月12日配信、13日更新/Investing.com掲載)